このブログでは運転支援・自動運転とその課題について何回か述べたが,ここでは2回に分けてこれらをまとめておきたい.
まず,自動運転レベル1と2であるが,これらは運転支援であって,認知・判断・操作の主体はドライバにあり,したがって運転の責任はすべてドライバにある.すでに多くの自動車にレベル1または2の運転支援システムが装備されて市販されているが,その効果についての発表は,筆者の調べた限りではスバル1社からのみである.下表はスバルが発表した運転支援システムEyeSightの効果である.以前も紹介したが新しいバージョンの結果が追加されたので改めて紹介する [1].ここでの事故の詳細は不明であるが,運転支援システムが事故を防ぐことに効果があることはこのデータが示している.
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販売台数 |
|
事故件数 |
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総件数 |
対歩行者 |
対車両・その他 件数 |
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うち追突 |
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Ver. 3 |
搭載車 |
456,444 |
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2,013 |
209 |
1,804 |
259 |
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1万台あたり |
44 |
5 |
39 |
6 |
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Ver. 2 |
搭載車 |
246,139 |
|
1,493 |
176 |
1,317 |
223 |
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1万台あたり |
61 |
7 |
54 |
9 |
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非搭載車(2010-14) |
48,085 |
|
741 |
67 |
674 |
269 |
|
|
1万台あたり |
154 |
14 |
140 |
56 |
しかしながら運転支援システムには過信という危険が潜む.新聞報道[2]によれば,国交省の調べで乗用車のドライバが自動ブレーキが作動すると過信して事故に至ったと疑われるケースが2019年に113件あった由である.交通安全白書によれば2019年の事故件数は38万件あまりで,割合からすれば113件は無視できる件数かもしれないが,ことの重大性からは無視できない(交通安全白書の事故件数は人身事故件数であるが,113件の事故件数は人身事故件数か物損事故も含む事故件数か不明).また,以前にもコメントで指摘したが,国民生活センターの広報資料[3]には運転支援システムについて以下のような事例が列挙されている(4年近く前の資料であるからやや古い事例ばかりで,現在では改良されているものもあるだろう).
【事例1】 衝突被害軽減ブレーキ付き新車を購入したが,追突事故を起こした.機能が作動しないことがあると知らなかった.(2017年9月受付)
【事例2】 衝突被害軽減ブレーキと車線逸脱警報が付いている新車の軽自動車を購入したが,装置が機能せず事故が起こった.(2017年4月受付)
【事例3】自宅近くの前方に何もないところで衝突被害軽減ブレーキが反応し急停車した.ディーラーに調査してもらったところ,進行方向左手のコンクリート壁横の電柱に対し反応したようだ.(2017年6月受付)
【事例4】 交差点で信号待ち後,信号が変わったので発進した途端,ペダル踏み間違い時加速抑制装置が作動し止まってしまった.(2016年5月受付)
【事例5】 駐車支援システムで駐車場に止めようとして,車右側前方が人家の壁にぶつかり損傷した.(2015年9月受付)
運転支援システムの効果に関する発表も少ないが,運転支援システムが関係する事故の発表も多いとはいえない.運転支援システムのプラスの面だけでなくマイナスの面を発表することは,運転支援や自動運転の健全な導入,普及に必要なことと思う.
システムに対する過信に関連して,これも以前紹介したが,「環境が安全になればドライバはかえって危険な運転をする.安全になった分だけ危険な行動をとる」というリスク・ホメオスタシスという説がある.ドライバは受容可能なリスクの限界で行動するため,より安全にするためには,運転支援システムが装備されていてもドライバが受容可能なリスクを下げるような運転教習が必要であろう.
次はレベル3である.レベル3の乗用車は,限定的ではあるが,すでに市販されている.このレベル3では限定された環境下での自動運転が可能となる.ドライバが運転中に車載システムが自動運転が可能であることを教える.自動運転を開始した後,自動運転が不可能になると車載システムはドライバにドライバが運転をするように促す.
「ドライバのパフォーマンスは負荷が小さくても大きくても下がる.適切な負荷の時にパフォーマンスは最大になる」というヤーキーズ・ドットソンの法則がある.市販されているレベル3の自動運転乗用車は渋滞時に自動運転が使えるが,この法則に照らせば,渋滞時というドライバの負荷が小さくなった時に使うことからこれは理にかなっている.この法則はヨーロッパの運転支援・自動運転プロジェクトであるHAVE-itのベースになった.HAVE-itの方針はドライバの負荷が小さい時と大きい時だけに運転支援・自動運転を行い,適切な負荷の時は行わないというものである.渋滞時と工事中などの狭隘路走行時のデモが行われたが,前者はドライバの負荷が小さい時,後者は大きい時の例である.
すでにこのブログでも指摘した(第2回)が,レベル3には2つの課題があると筆者は考えている.一つは自動運転中ドライバは何をすることが許されるか,もう一つは自動運転から手動運転への遷移時に問題はないのか,である.もし自動運転中にドライバがDVD鑑賞に夢中になって運転負荷が最低になり上述したヤーキーズ・ドットソンの法則に従ってパフォーマンスも最低になったとしたら,突然手動で運転するようにシステムに告げられたとき安全な遷移が可能か,筆者は心配している.
[1] 株式会社SUBARUのホームページ,2020年10月9日付けの資料.
[2] 朝日新聞,2021年9月23日朝刊.
[3] (独法)国民生活センター,先進安全自動車に関する消費者の使用実態,2018年1月18日.
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